バッテリの要らない基地局ってどんな局?
はじめに
楽天モバイルがMVNOからMNOに脱皮する費用として、6000億円あれば足りるとする三木谷氏の寝言驚くべき発言が様々なメディアで報道されています。当記事の執筆者であるhadsnはこの額では到底足りえないと考えているわけですが、よりよいエリアを作るためにはどうすれば良いのだろう?という思考実験を行った結果、停電対策のバッテリを省略した、ないしは省略せざるを得ない基地局を多く用意するという結論に至りました。ではどういった条件でなら省略できるのでしょうか? 今回はそれについて考えます。
結論
以下の条件を満たせばよい
- 予備電源のある基地局のエリア内にあること
- 停電しても3時間で復旧できるようにすること
- 停電したら (その場所で) 使えないということが利用者に周知されていること
なお音声通話サービスを提供しないのであれば (データ通信専用であれば)、以下に記す条文の対象とならず、予備電源確保の必要性はない。
予備電源を必要とする根拠は?
一般的に携帯電話の基地局には蓄電池や自家発電などの予備電源が必要な一方で、PHSやBWA (WiMAXやAXGP) の基地局には予備電源が不要という認識が持たれています。では予備電源が必要であると定めているのは、どういった決まりでしょうか?
この答えは昭和60年郵政省令第30号 “事業用電気通信設備規則” にあり、第三条第2項第九号および第三条の二、そして第十一条より、携帯電話やPHSの基地局には停電対策としてバッテリや自家発電を設けなければならず、自家発電用の燃料を用意するよう努め、役所の防災用回線はとりわけ長時間の停電対策をしなければならない旨が定められています。
PHS基地局にはバッテリが不要という認識が間違っていると発覚したわけですが、間違いとも言い切れません。実のところ、ついこの間までは間違いではなかったのです。2011年に発生した東日本大震災の被害を受けて出された、平成24年総務省令第69号 “事業用電気通信設備規則等の一部を改正する省令” により、PHS関連設備にまで予備電源確保の必要性が広がりました。
じゃあどういう時に要らないの?
ごく一部には、地下街に向けたレピータなどは予備電源が要らない、と知られているわけですが、これを定めているのは何でしょうか?
それは昭和60年郵政省令第30号 “事業用電気通信設備規則” の第十六条第4項および、昭和60年郵政省告示第228号 “事業用電気通信設備規則の細目を定める件” の第一条第2項より、予備電源が確保された基地局のサービスエリア内に設置される基地局であり、停電後3時間以内に復旧できるようにされてあり、停電時に使用できないことが周知されていなければならない旨が定められています。
思考実験の結論は?
楽天モバイル (MNO) の第一期エリアはどう考えてもローミング前提のピンポイントエリアになるわけだから、極論を言ってしまえば予備電源つきの基地局はドコモ任せにして、トラヒック発生地帯にぽんぽん置いていく方針で良いのでは?
参考文献・あわせて読みたい
- 総務省報道資料 平成20年2月6日 “予備電源の設置を要しない携帯電話の基地局等の条件の基本的考え方(案)“
- 情報通信審議会 電気通信事業部会 (第90回) 配布資料90-4 “事業用電気通信設備規則の一部改正について“
- 情報通信行政・郵政行政審議会 電気通信事業部会 (第34回) 配布資料34-8 “事業用電気通信設備規則等の一部改正について“
- 石井徹(2018)「楽天、2019年末の“携帯参入”構想「6000億円で全国カバーできる」」, 『ケータイ Watch』, (株)インプレス