携帯電話の番号枯渇で060/020を新規割り当て。M2M時代のケタ数増加の可能性に迫る!
読む前に
M2M向け電話番号として020が使われることが正式に決定されました。詳しくは下記の記事を参照してください。
はじめに
先日、日本経済新聞および産経新聞などから『早ければ2018年にも携帯電話の電話番号領域が枯渇してしまうため、総務省は現在割り当てのない060を携帯電話に、ポケベルに割り当てられている020をM2M, IoT向けに割り当てる方針』といったことが報じられた。これに対し、獣娘車跋扈する危険な我がツイッターランドでは様々な反応があり、『電話番号なんて時代遅れな識別方法はやめちめえ!』以外にも『たかだか1億7千万の番号じゃ足りっこない』という反応があった。今回は携帯電話むけ電話番号のケタ数増加の可能性について考察したい。
結論
ケタ数さえ増やせば060だけで900億個の番号が増える(つかえる)
で、実際何ケタまで増やせるの?
この答えは14ケタである。その理由は大変簡単で、国際的な電話番号の番号計画はITU-TのE.190勧告において決まっており、国番号を含んだ形式の電話番号では15ケタまで、となっている為である。そして同時にGSM, W-CDMAおよびLTE携帯電話における電話番号、つまりMSISDNはこのITU-TのE.190勧告に基づいて定められている。
『日本の国番号は「81」の2ケタなのだから13ケタまでしか増やせないだろう』というツッコミがあるかもしれない。しかし、海外から日本国内の電話番号に架ける場合の電話番号を見慣れた人はすぐ判ると思うが、日本の電話に海外から架ける場合は市外局番の頭の0を取り除くのである。このように国番号を含んだ形式の電話番号では、国内で使用する電話番号の2ケタ目以降しか入らないので15-2+1=14ケタとなるのである。
あれれ? 100億個足りないよ?
『電話番号が14ケタまで増やせ、頭の3ケタが決まっているのであれば増やせる電話番号の数は10^11=1000億だ』と考える御仁もいらっしゃるかもしれない。計算自体は間違いではないのだが、発想が間違っている。
現在日本では大まかに分けると5つの電話番号の種類がある。一つがよく知られた固定電話への電話番号、一つが110や119, 116といった3ケタ特番(1XY番号)、一つが携帯電話・IP電話の様な固定電話とは違った電話への電話番号(0A0番号)、一つが0077や 001, 0088のように00から始まる電話を架ける際に使う会社を指定する事業者識別番号(00XY番号)、そして最後に0120や0570といった高度な電話サービス向けの電話番号(0AB0番号)である。
ここまで書いてしまえば気付ける人は気付いてしまうだろう。もし060のすぐ後に0がくる電話番号があったとしよう。その電話番号を先のように記号を使って表すと0600-DEFGHJKLMとなってしまう。ここまで書けば判るように、0AB0から始まる高度な電話サービス向けの電話番号と同じ形式になってしまうのだ。識別の観点からすればこれは大変都合が悪く、日経の記事で『060に続く数字には0を使えない』とあるのはこれが原因であり、当然ながら020から始まるような電話番号であっても4ケタ目として0を使うことはあり得ないのである。
このような理由により14ケタにして060を新たに携帯電話に割り当てた場合、9×10^10=900億個の電話番号が増えるという計算になるのである。なお、020のポケベルで使われていない領域を14ケタで割り当てた場合は8×10^10=800億個ないしは8×10^10+8×10^9=880億個となるのである。
まとめ
現在の日本の人口は1億3000万といわれており、国民全員が携帯電話をわずかに2台を持っただけで2億7000万契約となってしまい、さらには今後のM2Mの発展を鑑みると国民一人一人が気付かないうちに電話番号が割り当てられる機器の契約を5契約・6契約と増やしてしまうことは十二分に考えられるものである。このような状況で、わずかに1億7000万回線分しか増やせない方法での新規番号帯割り当ては、平成11年以前の10ケタによる携帯電話・PHS向け番号帯の割り当てに等しい様相を示し、後日のケタ数増加に伴う混乱を招くものと考えられる。
最終的に携帯電話・PHS電話番号のケタ数を増やすのであれば予めケタ数を増やしておく方が望ましいと考えられ、どうせ増やすのであれば現在の規定の中で最大桁数となり、020の1番号帯の単純な割り当てであっても利用可能な電話番号を800億も増やすことのできる14ケタになることを期待させていただく。
そして同時に、最近流行のモバイルWi-Fiルータやタブレット向けのデータ回線はM2M向けに用いられているテレマティクスモジュールとは違い、電話番号はあくまでも契約者を特定する用途にのみ使われていることを考えるとこれらデータ回線に他社からのアクセスが可能なITU-T E.190勧告に則った電話番号をつけてしまったのがそもそもの間違いだったのではないだろうか?と疑問を投げかけて筆を置かせていただきたい
参考文献
- 総務省「電話番号に関するQ&A」
- 総務省「電気通信番号指定状況 – 発信者課金ポケベル電話番号(020)」, 平成27年6月2日版
- 一色耕治・中村一夫「ITU-T SG2での電気通信番号の標準化動向」, 『ITUジャーナル』 2015年3月号, (一財)日本ITU協会
- 奥田達彦「5群6編3章2-1 国際番号計画」, 『知識の森』, 電子情報通信学会
- 日本経済新聞「電子機器に専用携帯番号、通信向けに「020」を開放」, 2015年06月16日
- SankeiBiz「機器間通信に「020」専用割り当て検討 総務省が携帯番号不足で」, 2015年06月16日