MVNOがau 3Gを提供しないことに関する考察
はじめに
今回はよく言われる「auを使ったMVNO(mineoやUQ mobileなど)が3Gを使えないのはなぜ?」という疑問に対して「KDDIは3Gをやめたいから」といったありきたりかつ思考停止した答えに対するカウンターとして、CDMA2000 1xEV-DO(HRPD)をLTEとの協調性を持たせたeHRPDのコアネットワークとLTE/UMTSのコアネットワークであるEPCとを対比し、これをもとに理由を考えてみたい。 なお、この文書で扱われるMVNOはMNOとL2接続されている物のみとする(ただし、MVNOは基本的にL2接続を行っているためほとんどのMVNOについて適用されるものと思われる)
結論
auの3G基地局からMVNO事業者のネットワークにデータを流すルートが存在しないから
ドコモのLTE/3Gについて
まず始めに「ドコモを利用したMVNOでNifMoのようにLTE向けの設備しか用意していなくともなぜXi端末であればFOMAのみでエリア化されている場所でも通信できるのか」を考える。ドコモを使ったMVNOのネットワーク構成は以下の図で示されるものとなっている。なお、利用者のデータが通らない機器は省略した
この図を見て「なんだこれゎ」と思う方もいらっしゃるだろう。しかし、”Xi-UE”が「Xi端末」、”eNB”が「Xi基地局」、”FOMA-UE”が「FOMA端末」、”NodeB”が「FOMA基地局」とだけ知っておけば十分であり、決して”SGSN”が”Serving GPRS Support Node”の略だ、なんて知っていなくてよい。なお、端末から基地局までの線がドコモ設備の枠の中に入っているのは、あくまでも通信に利用する電波はドコモが免許を受けたからである。
さて実際にXi端末およびFOMA端末からmoperaUや、spモードなどといったドコモが提供しているAPNを通じてデータを流してみよう。すると下の図で示す経路を通る。
FOMA端末であるFOMA-UEがFOMAエリアで通信した場合は、基地局であるNodeBと電波で通信を行い、データはRNC, SGSN, GGSNとリレーされてインターネットへ出てゆく。一方でXi端末であるXi-UEがXiエリアで通信した場合は、基地局であるeNB, S-GW, P-GWとデータがリレーされてインターネットに出てゆく。
そして問題となるのがXi端末がFOMAエリアで通信した場合である。最初はFOMA端末が通信したときのようにNodeB, RNC, SGSNとデータがリレーされてゆくのだが、ここからが違う。GGSNにはデータが行かず、S-GWにリレーされてS-GWからP-GWへとリレーされてインターネットへと出てゆくのだ。
ここまで書けば前述の『ドコモを利用したMVNOでNifMoのようにLTE向けの設備しか用意していなくとも、なぜXi端末であればFOMAのみでエリア化されている場所でも通信できるのか』という問いに対する答えは自明である。「Xi端末であればFOMAエリアでの通信であっても、途中からはXiエリアと同様のルートを通って通信される。ドコモ側の設備を出る前にXiと同じルートに移るためMVNOであってもそのルートが利用できるから」というわけである。
auのLTE/3Gについて
こんどは「auを利用したMVNOがなぜ3Gエリアで通信できないのか」について考える。KDDIおよびauを利用したMVNOのネットワーク構成は以下の図で示されるものとなっている。同様に利用者のデータが通らない機器は省略した
ドコモの場合と比べて途端に複雑になっているが、やはり同様に”LTE/eHRPD UE”が「au 4G LTE端末」、”eNB”が「au 4G LTE基地局」、”HRPD-AT”が「CDMA 1X WIN端末」、”HRPD BTS”が「CDMA 1X WIN基地局」とさえ判っていればよい。”PDSN”が”Packet Data Service Node”の略だ、なんて知らなくていい。
同様にKDDIの設備を通じてau 4G LTE端末およびCDMA 1X WIN端末から、au 4G LTEエリアおよびCDMA 1X WINエリアでインターネットに接続してみよう。データの流れは以下の図で示すようになる
au 4G LTE端末がau 4G LTEエリアで通信した場合、Xi端末がXiエリアで通信したとき同様に、データはau 4G LTE端末であるLTE/eHRPD UEから基地局であるeNB, eNBからS-GW, P-GWとリレーされてゆく。
一方でCDMA 1X WINエリアでCDMA 1X WIN端末がインターネットに接続しようとすると、CDMA 1X WIN端末であるHRPD-ATは基地局であるHRPD BTSと電波で通信を行う。そしてデータはeRNC, PDSN, HAと中継されていってからインターネットに出ることができるのである。
そして最後に問題であるau 4G LTE端末がCDMA 1X WINエリアで通信しようとしたときの説明である。au 4G LTE端末であるLTE/eHRPD UEが基地局であるHRPD BTSにデータを流すと、eRNC, HSGWと通ってS-GWではなく直接P-GWに向かってインターネットへと出る。
この、3G側の設備を通ったデータがS-GWを経由せずにP-GWへと直接リレーされるのが非対応のミソである。
まとめ
ドコモを利用したMVNOのネットワーク構成、auを利用したMVNOのネットワーク構成で示したようにL2接続を行ったMVNOの場合、P-GWはMVNO側の設備となる。このため3Gエリアでのデータ接続を実現するには「3G側の設備を如何にしてP-GWへと接続するか」が問題となるのだが、ドコモを利用する場合はドコモの設備であるS-GWにFOMA側の設備が接続されているがために勝手にFOMAエリアでの通信がXiエリアでの通信と同じルートに載ってくる。しかしauを利用して3Gエリアでの通信を実現するためにはau 4G LTEのルートとは別にCDMA 1X WINの設備をP-GWへとつながなければならない。未確認情報ではあるがKDDIがこの接続を断っている、という話もある。
あとがき
結論としてはよく言われている「KDDIは3Gをやめたいから」というものになってしまったが、こういった技術的な問題、およびそれに起因する経済的な問題があるという事も解っていただけたであろう。判り切った問題を長々と解説した理由は非常に簡単であり、既存のAndroid端末をVoLTE対応に一切対応させないだけでなくSIMロックの種類すらも変えてしまったKDDIに対する「ほんとにCDMA2000を止めたいとを想っているならこの発想は出て来ない。VoLTE開始前に好きな端末を購入して好きな機種で高音質通話できないと判ったらどう思うのかな?」というKDDIによるCDMA2000の低音質に苛まれたあとのこの、Androidはアップデートによる対応なし、iPhone6/6 PlusはアップデートによるVoLTE対応アリという仕打ちによる幼稚な不満からなのである。KDDIによるCDMA2000の停波が円滑に進むことを願って筆を置かせていただきたい。
参考文献
- Bill Chotiner(2011)『EHRPD EV-DO & LTE Interworking』, ERICSSON
- (2013)『一連のLTE通信障害の原因と対策について』, KDDI株式会社
- Mike Dolan(2009)『LTE – CDMA Interworking』, Alcatel – Lucent(2015/05/27, 31閲覧)
- Andreas Roessler(2010)『Bridghing the gap between LTE and 1xEV-DO』, ROHDE&SCHWARZ(2015/05/28, 31閲覧)
- Mike Keely(2009)『eHRPD』, SPIRENT(2015/05/31閲覧)
- あんのーん(2014)「NTTドコモの主要なMVNEとMVNOの関係をAPNから整理してみた」, 『BLOGRAM』,(2015/05/31閲覧)
- 「NifMo 動作確認済みデータ端末一覧」, 『@nifty会員サポート』, ニフティ株式会社(2015/05/31閲覧)
- 3Gのみ対応の機器など、LTEに対応していない機器でのご利用はできません。
- LTE対応機器の場合でも、ご利用のエリアによってはLTEから3Gへ切り替わることがあります。