au 4G LTE上りは速くなったのか? 技術文書から考えるその真偽
はじめに
以前に “au 4G LTEの上りが遅いワケ” などという記事を書き、KDDIのBand1 LTEはPHSに影響を与えないようにすべく、帯域外発射を抑えるべく低すぎる周波数を使用しない・混変調積がPHS帯域に出ないように使える幅に制限をすると長々と説明させていただいたわけでございます。
そして当該記事でも若干触れた、Band1 LTEの上り最大速度が12Mbpsから50Mbpsとなる、新NS_05対応機種が発売されると発表されて早2ヶ月。対応機種であるGalaxy S8+ SCV35およびGalaxy S8 SCV36, AQUOS R SHV39の発売日も過ぎて、これらの機種の上り通信速度が本当に速くなっているのか、と疑問に思う方がそれなりにいるかと思います。今回はそれに関するお話
結論
実効速度は上がっているはずであるが、(筆者は測定に必要な機材一式を所持していないので) 断言できない
au 4G LTEにPHSから科せられた条件(Rel.11以前)
再度の復習となるが、KDDIのBand1 LTEにはPHS帯域にある一定以上のノイズを漏らしてはいけないことになっている。この表現は厳密には間違いであるが、よほど問題のある端末設計をしない限り関係がないので無視する。さて、この制限を満たすためにどのようなことを行ったのであろうか? それは非常に簡単である。使ってよい周波数帯域の制限と、1端末に割り当ててよいリソース・ブロック数の制限である。この制限では端末の実力値を無視して基地局の側から機械的に割り当てを制限するようになっている。
この結果、15MHz幅でサービスを提供する112.5Mbpsエリアでは使える周波数が1927.19 – 1937.81MHz間の10.63MHz幅となり、1端末に割り振ってよい上り帯域が5.40MHz幅となるので、上り最大セル容量が30Mbps, 端末当たりの上り最大速度が15Mbpsとなる。そして20MHz幅でサービスを提供する150Mbpsエリアでは、使える周波数が1925.32 – 1934.68MHz間の9.36MHz幅となり、1端末に割り振ってよい上り帯域が4.32MHz幅となるので、上り最大セル容量が26Mbps, 端末当たりの上り最大速度が12Mbpsとなる。
au 4G LTEにPHSから科せられた条件(Rel.12以降)
さてここからが今回の本題である。3GPP Release 12 V12.10.0からであっても、Release 11以前と同様にPHS帯域へノイズをまき散らしてはいけないこととなっている。何が異なるかと言うと、ノイズをまき散らさないために追加の送信電力制限(A-MPR)※が適用できるようになっており、端末の実力値に応じて適応的に出力を調整し、使う帯域の最大化を図っているのがポイントである。以下にA-MPR適用表を示す。
ではこのノイズをPHS帯域にまき散らさない方法が変わったことによってどのような影響が出るのだろうか? それは大変簡単である。基地局に近い端末は上り最大50Mbpsが実現できる。しかし逆に言えば基地局から遠い端末は最大50Mbpsとならない。なのでメリットがないか?と言えばそうではない。上に示した表および、上りの変調が16QAMかつ全RB割当時に1dBの送信電力制限 (MPR) が適用できることからもわかるように、Release 11以前では使えななかった上側の帯域、1937.81 – 1939.25MHz (15MHz幅・112.5Mbpsエリア) や1934.68 – 1939MHz (20MHz幅・150MHzエリア) が多くの条件で使えるようになっており、上り最大セル容量が実質的に33.5Mbps (15MHz幅・112.5Mbpsエリア) および38Mbps (20MHz幅・150Mbpsエリア) に大容量化したと言える (下側帯域は利用できる条件が厳しいと推測されるのでなかったものとして扱う) のである。従って、新NS_05対応機種は大概の場合で古い機種に邪魔されることなく上り通信が可能なのである。
※: 正しい訳は “追加の最大送信電力の低減” となるかもしれないが、まあそこは意訳という事で
上り最大50Mbpsなのってどれくらいのエリアなの?
そんな物などない。
完全かつガバガバな推測となるんですが、基地局からの電波が-80dBmで受信できる場所 (RSRP) なら、なんとかリソース・ブロックを50Mbpsを実現できる100ヶ割り当ててもらえるんじゃないかって思います。
こう考える理由は非常に簡単で、上に示した表から判るように、20MHz幅・150MHzのエリアで、RBを100ヶ割り当てられた時には最大11dBの追加の送信電力制限 (A-MPR) が適用できるわけです。そして一般的なLTE端末はPower Class 3となっており、23dBmの送信電力が許容されているわけです。なので、PHSに影響を与えないように送信電力を絞った場合、最悪で送信電力は12dBmとなるわけです。
一方で、800MHz帯での測定値となりますが、下り方向の電力が基地局直下より35dB低下しても上り速度に影響を与えていないというデータが出ています。伝搬減衰が上下対象に起きていると考えてA-MPRでの送信電力低下を差し引くと24dB低下点となるのですが、送信幅が800MHz帯比で2倍になったので更に3dB積み増し、周波数も2GHzと高くなっているので800MHz帯での基地局直下でのRSRPが-64dBmだったので積み増していい感じに丸め、-80dBmくらいのRSRPがあればRBを100ヶ割り当ててもらって、16QAMの変調が悪くない畳み込み率で実現できるんじゃないか、と考えた次第であります。正直 “そんな物などない” と言ってレベルジャマイカ?
参考文献
- “ETSI TS 136 101 V13.3.0(2016-05)“, p91 2017/08/01閲覧
- “しまね”氏による受信電力と速度測定結果の関係 2017/08/01閲覧