ソフトバンクのMassive MIMO PV撮影地に行ってきた
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はじめに
先日の日経新聞において、「ソフトバンクがMassive MIMOのPVを撮影するに当たって臨時で基地局設備を増強した」という記事があったのを諸君はご存知であろうか。
ソフトバンクのウェブサイトには「10秒チャレンジ」と題する動画がある。都内の公園で大手3社のスマホ100台を操作したらソフトバンクが最速だったという宣伝だ。競合他社が同じ場所で測定してみたら結果は全く違ったという。ソフトバンクは撮影時に通信設備を臨時に増強していた。
そして問題の動画はこちら
この日経新聞の記述が本当であるかどうかはソースがないので確かめることはできない。
しかし、撮影地がどんな場所であるのかを確認しておこうと思い、実際に行ってみたレポートが以下となる。
PV撮影地のレポート
撮影地の周辺の基地局
PV撮影地は立川にある。
住所は「東京都立川市曙町2丁目33−1」であり、交差点に面した小さい公園といったところである。
16時ごろであったの女子高生などがやたらいたが、そんなに人が多い場所ではなかった。
辺りを見回してみると確かにMassive MIMOの基地局が見えた。
下にある四角いアンテナがHuaweiのMassive MIMOアンテナで、上にある4本槍がAXGP+PHSのアンテナである。
なお、Massive MIMOのアンテナにはZTE製もある。
これは例の撮影から撮った画像であるが、Massive MIMOのアンテナがこちらを向いていない(撮影地よりも立川駅寄り)
もし臨時で基地局を弄っていたのだとしたら、アンテナをこちら向きにしていたのではないかという仮定は容易にできる。
次に他キャリアの基地局はないかと探してみたが目視できる範囲には存在しなかった。
そこで撮影地周辺を歩いてみたところ、すぐ近くではあるもののビルに隠れる形でauとソフトバンクの基地局を発見した。
住所:東京都立川市曙町2丁目8−5
右はソフトバンクのマルチバンドアンテナであるが、左のauのアンテナはシングルバンドのようである(B18?)
また、後述のスピードテストをした際にはこれではない基地局を掴んでいた可能性が高い。
ドコモの基地局も探したのだが周辺には存在せず、少し離れているところのものを掴んでいるようであった。
これは後述の電波状況からも見て取れる。
電波状況とスピードテスト
今回は
「ドコモ:SC-02H KDDI:iPhone 6s ソフトバンク:401SO」を用いて電波状況の確認とスピードテストを行った。
auの端末がiPhoneであるためauに関しては参考程度に捕らえてほしい、申し訳ない(筆者が良い端末を持っていない)
電波状況を確認する前に全端末一度機内モードのオンオフを行った。
またスピードテストは各キャリアとも2回ずつ行った。
スピードテストの結果はあくまでおまけということで参考程度にとらえてほしい。
ドコモ
Band1のRSRPは-95dBm前後を行き来した。強度としてはまずまずである。
しかし、RSRQやSNRから電波品質としては良くないものは諸君も見て取れるだろう。
3CC CAでありながらこの速度は正直言って遅い。
<注意>
S7 edge等のservicemodeではCAしているセカンダリセルのRSRP/RSRQが実際よりも悪く表示されてしまうことがあるバグがある。
下のスクショではそのバグは起きていないようではあるが、参考程度に捕らえてほしい。
KDDI
ご存知のとおり、6s以降のiPhoneのFieldtestにはバグがあるため表示がおかしくなっている。
しかし、プライマリバンドのRSSIが-78dBmであり、Band1と18のCAで下り最大225Mbpsのエリアであることは推測できる。
速度としてはドコモよりも速い上に通常使う分には十分な速度ではある。
ソフトバンク
今回はTransmission Modeが7であることからMassive MIMOを掴んでいると判断した。
(Transmissiom Mode:7はシングルレイヤー送信であれば非コードブックベース・コーディングが可能である。これに関しては後ほど考察で)
当然ではあるが、唯一の撮影地から目視できる基地局ということもあって電波状況がよく速度も速い。
ちなみに上り速度が異常に早いのは、上り測定の際に2.1GHz帯を掴んでいるからである。
近頃のソフトバンクは上りに大トラヒックを流そうとするとAXGPからFDDにハンドオーバーする仕様があるようだ。
(いったん)まとめ
基地局配置や電波状況等を見る限り、PVの撮影場所がそもそもソフトバンクに有利である場所というのは間違いないだろう。
そもそもどうして立川のこんな場所で撮るのか、という話なわけで、撮影時に臨時増強を行ったかどうか以前に、自社にとって都合のいい場所を選んでいたであろうことは日経の記事が無くとも容易に想像できる話なのであった。
考察
先ほど、
Transmission Mode(以下:TM)が7であることからMassive MIMOを掴んでいると判断した
と記述した。
TM7ではシングルレイヤーでビームフォーミングを行うことが可能であるが、この時アンテナ数は2×1(ビームフォーミングを行っているのでTxは1ではなく2)となるため実は端末から見るとMIMOをしていないといえる。
そのため今回のケースでは64QAMなので下り最大55Mbpsで通信していたというわけだ。
なぜTM8にしないのかは定かではないが、Massive MIMO基地局を掴んでいるとTM7になっていることが多いのは読者諸君もご存知であろう。
今回のようなTM7のケースではMassive MIMOといいながら実はMIMOなしで下り55Mbpsでした~というのが今回の話の最大のおちである。
次回予告
先ほど、
TM7ではシングルレイヤーでビームフォーミングを行うことが可能である
と記述したがさらに言うと、TM7であればシングルレイヤーの時”DM-RS(Demodulation Reference Signal)”を用いた非コードブックべースのプリコーディング、ビームフォーミングが使用可能なのである。
(DM-RSを用いないコードブックベースのビームフォーミングはMassive MIMOのような多アンテナのケースではチャネル行列が複雑化するため不可能みたい?)
そして通常のAXGP基地局ではTM8となるため、実は2レイヤーでの非コードブックベース・プリコーディングが可能である。
すなわち、通常のAXGP基地局はビームフォーミングやMU-MIMOが可能というわけだ。
しかし読者の中には、DM-RS?コードブックベース?と思われる方もいるであろうし(思わないくらい詳しい人はこのブログを見ないであろう)、Transmission modeに関して調べた好奇心旺盛な読者の中には「TM5でもMU-MIMOできるんじゃないの?」と思われたかもしれない。
ということで次回は簡単ではあるが「TM5のMU-MIMOとTM8以降のMU-MIMOの違い、DM-RSとは」と題してこの辺の話をまとめてみたいと思う。
参考文献
4G: LTE/LTE-Advanced for Mobile Broadband, Second Edition』 Academic Press
これの日本語訳されたものとして「4G LTE/LTE-Advancedのすべて」がありますが、訳がところどころおかしいところがあります。