電波系オタクから見たiPhone XS

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はじめに

2018/09/12 AM 09:00 -07:00よりApple Special Eventが開催されました。このイベントではiPhone XSおよびiPhone XRが発表され、eSIMを利用したDSDSや、ギガビット級LTEへの対応が訴求点の一つ[1]とされました。今回は中国系でもない限り、一般のメディア・ブログではあまり触れないであろう、これらの点に絞って紹介していきたいと思います。

eSIMの内蔵とDSDSへの対応

iPhone XSおよびiPhone XRはeSIM内蔵と、これまでのnanoSIMとeSIMとを利用したDual SIM Dual Standby (DSDS) に対応しています。ちなみに中国・香港・マカオ向けのiPhoneXS MaxとiPhone XRはeSIMを利用したDSDSに対応しておらず[3]、これまでのnanoSIMを2枚利用したDSDSに対応しています。

eSIMの内蔵

eSIMというのはこれまでのSIMと違い、携帯電話に内蔵され (これまでのSIMと同様にカード型の物もある[4])、手元での契約情報の書き込み (リモートプロビジョニング) に対応している[5]のが特徴です。以前にもAppleにはApple SIMという、リモートプロビジョニングに対応した仕組みもありました[6]。しかしながら今回の物はeSIMと謳っているだけでなく、QRコードを利用して契約情報のもととなるものを参照する[7]とあるので、Apple独自の物ではなく携帯電話の規格策定団体3GPPが策定する “業界標準のeSIM” となることが期待されます。

Dual SIM Dual Standby (DSDS) に対応

Dual SIM Dual Standby (DSDS) 対応というのは、1台の端末に2枚のSIMを挿し、2回線同時待ち受けに対応しているということを意味します。eSIMを利用している場合はうち1枚が脱着不能、電話機本体に内蔵されたものなるので、”どこがデュアルSIMなんだ?” と疑問に思われるかもしれません。従ってドコモの2in1や、ソフトバンクのダブルナンバーといった物を思い浮かべるといいでしょうか。もっともこれらのサービスは1枚のSIMに、交換機側の工夫で2番組の発着信を可能にさせる物だったわけですが。

DSDSに対応していると同時に2番号待ち受けができるということになるため、電話回線とパケット通信回線の分離や、私用電話と仕事用電話の一体化ができるという利点が存在します。

電話回線とパケット通信回線の分離は海外旅行・海外出張の際に役立ちます。パケットパック海外オプションや世界データ定額、海外パケットし放題で海外パケ死の恐怖とはおさらばできたとはいえ、980円/日というのは決して安くないモノ。利用の仕方によってはGigSkyやTruphoneといったローミング専業MVNOや、現地の携帯電話事業者と契約した方が当然安くなります。DSDSに対応しないスマートフォンを利用している場合だと、これらの事業者のSIMを利用しつつ、普段の電話番号をどう着信するか?ということで悩むことになりますが、DSDS対応であれば追加契約したSIMを入れて設定するだけ。特に悩む必要はありません。今回のiPhoneは原則eSIMに対応しているので、SIMを買いに行く手間すら省けます。

DSDSにeSIMが必要となる問題点

上の項ではDSDSだと “電話回線とパケット通信回線の分離や、私用電話と仕事用電話の一体化ができる” と書きました。しかしながら、今回のiPhoneでは後者のメリットは生かせません。それは “Appleが保証するeSIMに対応した携帯電話事業者” が未だに日本には存在しない[8]ためで、前者のメリットも、怪しい露店で販売されている現地SIMが使えるわけでもないので、若干はスポイルされることとなります。

ギガビット級LTEへの対応

日本で普通にお買い求めの皆様へ

今回のiPhone XSでは4×4 MIMOおよびLAAに対応していると発表[9]されていますが、日本ではLAAのための制度整備が済んでいないのでLAAを運用している携帯電話事業者は存在していません。このためau 4G LTEでは818.5Mbps[10], NTTドコモ PREMIUM 4Gでは844Mbps[11]となります。SoftBank 4Gは利用している基地局メーカの組み合わせの都合により、612Mbpsに留まることが推定されます。

物理Dual SIMを求めて香港版をお買い求めの皆様へ

#eSIMの内蔵とDSDSへの対応では香港などでは、eSIMが利用可能なiPhoneが購入できない旨を悪しざまに書いた。しかしながら#DSDSにeSIMが必要となる問題点で触れたように、海外に出ない限りDSDSの恩恵は存在していない。一方でnanoSIMを2枚明示的に刺すタイプのDSDSであれば、日本国内で契約可能なさまざまな携帯電話サービスを利用することができるため、iPhone 5以前をドコモで使うときのように、香港向けのiPhoneを旅行ついでに購入してくる方もいらっしゃるかもしれない。

海外向けのiPhoneを使うには注意が存在する。それはLTEの対応周波数が違う[12]ため、携帯電話事業者が発表している受信最大・送信最大といった値がアテにならず、最悪の場合エリアマップすらアテにならなくなってしまう (i.e. iPhone 5はW-CDMA Band VIに対応しないためFOMAプラスエリアで使用できない) ことだ。同じ機種でも発売元事業者によって対応周波数の違う、各事業者から発売されているAndroid端末を、SIMロック解除してイドコモ的なことをやっている諸兄からすれば、そこまで驚きは大きくないかもしれない。

iPhone XS Maxではどこの国・地域向けであっても、日本の3大MNOが利用している “主たる” プラチナバンド・メインバンドにそれぞれ対応しているので、今のところは問題ないかもしれない。しかし日本向け以外ではBand 11 / 21といった1.5GHz, Band 42の3.5GHzに対応しておらず、北米向け・中国向けでは1.5 / 3.5GHzだけでなくBand 28の700MHzに対応していない。

このため、Band 21に頼らざるを得ない長野[13]など東名阪以外のドコモおよびそのMVNO利用者や、Band 28がどう使われるか判らない僻地に住むKDDI利用者、Band 28を絡めたCAが予期される都心部に住むソフトバンク利用者 (特にAXGPが使えず、Band 42頼りのMVNO利用者) には若干の厳しさが存在している。

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